コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2012/05/21

民間の歴史からの問題提起期待

▼ 明治100年記念の一環として佐倉市につくられた国立歴史民俗博物館(歴博)は、83年の開館から30年近くが経つ。2010年には昭和を紹介する現代の第6室が開設し、原始から現代まで通史できるようになった。幅広い研究の成果を論文でなく展示によって表現する基本姿勢は一貫している
▼ 学生時代に歴史を専攻していたこともあり、その開館が待たれたことが思い出される。以来、何度も足を運び、常設展や企画展を楽しんできた。93年に近世の第5室がオープンした頃から、じっくり観れば半日でも足りない充実度になったが、気軽に再訪する上でも、県内への立地はありがたかった
▼ 国立という肩書の割に歴博が親しみやすく感じられるのは、社会構造や人々の暮らしの再現に主眼を置いた展示になっているからだ。支配者や偉人など歴史上の人物はほとんど登場しない。04年の20周年企画展「民衆文化とつくられたヒーローたち~アウトローの幕末維新史」などは、正史では取り上げられることの少ない英雄たちに焦点を当て、面目躍如たるものがあった。お上の「正史」に対し民間の歴史を「稗史(はいし)」と呼ぶことも知った
▼ 歴史の役割について平川館長は「(東日本大震災の)被災地で人々が探したものの中にはアルバムや位牌があった。祭りや年中行事を復活させようとの努力もあった」と、歴史や文化を伝承する地域社会の結びつきの重要性を指摘している。我々が歴史から学ぶべきものは多い。歴博にはこれからも、歴史研究を通して未来を拓く積極的な問題提起を期待したい。

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