コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2011/06/06

見習ってほしい忠敬の精神

▼千葉県の偉人と言われて真っ先に思い浮かぶのは、江戸時代の測量家、伊能忠敬(1745―1818)かもしれない。忠敬は上総国山辺郡小関村(現・九十九里町小関)に生まれ、18歳からは下総国香取郡佐原村(現・香取市佐原)の伊能家に婿養子に入り、商人として活躍するなど、本県との結びつきは深い
▼今回の震災では、忠敬ゆかりの場所が多い九十九里も、忠敬の旧宅がある佐原の伝統的街並みも、深刻な被害を受けた。記録によれば、忠敬は享和元年(1801)の第2次測量で房総から太平洋岸を北上し、下北半島へ向かっている。日本国中を巡った忠敬といえど、今回の被災地の惨状を見たら何というだろう
▼驚くべきことに、忠敬は51歳の時、19歳年下の江戸幕府の天文方・高橋至時に師事している。人生50年の時代、しかも儒教精神を重んじる封建社会にあって、なかなかできることではない。しかもその後、72歳まで17年をかけて実に4万キロを踏破した。「隠居の慰みとは申しながら、後世の参考となるべき地図を作りたい」と、言葉こそ控えめだが、内なる情熱はいかばかりか
▼当初は私財を投じた、個人的な色合いの強いその仕事も、徐々に多くの期待を担う国家事業へと変わっていった。自らの力で評価を高め、その結果、精度の高い日本地図を作り上げた
▼幕府天文方からは「人の為、天下の為、天に尽くすつもりで事業を達成されるよう」励まされ、老骨に鞭打って、測量の旅を続けた忠敬。そのぶれない精神には恐れ入る。この非常時に露骨な権力ゲームにふける国会議員たちに、爪の垢でも煎じて飲ませたい

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