コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2011/07/04

唯一無二の「コロンボ」逝く

▼はまり役といって、これほどのはまり役もなかろう。「刑事コロンボ」でおなじみのピーター・フォーク氏が83歳で亡くなった。無精ひげ、ぼさぼさの髪、よれよれのコートという風貌に、「うちのかみさんがね…」「あと、ひとつだけ」の名セリフが忘れがたい
▼30を前に公務員から転身し、40過ぎに生涯のはまり役を得たが、プロフィルをながめると、意外や出演作品は多く、シリアスな役柄から中年役まで幅広くこなしている。米テレビ界最高の栄誉であるエミー賞主演男優賞には、コロンボ役で実に4回も輝いた
▼コロンボ以外で筆者の記憶に残るのは、実名で出演した、ドイツのヴィム・ヴェンダース監督の「ベルリン・天使の詩」。フォークがベルリンの街を歩くシーンでは「コロンボだ、コロンボだ」と大人から子供まで道行く人に声をかけられる。世界各国で人気を博したコロンボだが、とくにドイツでは50%を超える視聴率だったそうだ
▼それまでの標準的な犯人探しの展開とは逆に、冒頭で犯人と犯行を視聴者に明かし、鋭い推理で犯人をじわじわと追い込んでいく「倒叙」と呼ばれる手法。これが当時なんとも新鮮で、胸躍らされた。視聴者に犯人との知恵比べや米国の上流社会をのぞき見る愉悦を味わわせながら、少しも嫌味にならないのは、俳優の憎めない個性ゆえだった
▼渥美清さんイコール「寅さん」だったように、ピーター・フォーク氏もイコール「コロンボ」でしかありえない。晩年は認知症を患い、自分がコロンボだったことすら思い出せないほど悪化していたというが、俳優人生の後半を唯一無二のキャラクターに捧げた一生というのは、やはり本望だったに違いない。

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