コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

  1. ホーム
  2. コラム「復・建」

2013/03/12

ネルーダ遺体発掘の報に思う

▼ナポリ沖の小さな島に亡命してきたチリの国民的詩人パブロ・ネルーダと、彼専属の郵便配達人の、詩を通した交流を描いたイタリア映画「イル・ポスティーノ」をご覧になった方もおられよう。ネルーダを演じたフィリップ・ノワレの遺作でもあり、出会いが人生を変え、一途な思いが真実を生むメッセージに心揺さぶられる感動作だった
▼そのネルーダの遺体が死因究明のために掘り返されるとの報道が先日あった。軍事政権による毒殺の可能性があるとの告発を受けたもので、4月上旬に掘り返され、5月初旬には死因究明の結果が明らかになるそうだ。真実が明かされる意義もあるだろうが、本人が生きていたらどう言うかも聞けるものなら聞いてみたい
▼ネルーダは70年に社会主義政権を樹立したアジェンデ大統領のもとで一時、駐仏大使を務め、パリに滞在していた71年にノーベル文学賞を受賞した。同政権が倒された73年9月の軍事クーデターの直後、チリ国内の病院で死去、がんの悪化が死因とされてきた
▼毒殺の可能性が指摘されるのは、ネルーダの運転手だった男性が2011年、同氏が医師に注射された後、容体が急変したと証言したため
▼ネルーダがフランスやイタリアなどで亡命生活を送ったのは、親米政権下の1940年代から50年代にかけてで、映画「イル・ポスティーノ」もそうした史実に基づいている。毒殺疑惑や遺体発掘といったニュースを聞いては、ネルーダの肖像も少しは違って見えるだろう。もちろん、映画に描かれる美しい自然や心温まる触れ合いに変わりはないが。

会員様ログイン

お知らせ一覧へ