コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2015/03/30

空き家に思う植物の生命力

▼人口減少に伴う空き家問題がクローズアップされ、その対策が急務になっている。国土交通省は空き家対策の基本方針と除却に関するガイドラインをまとめ、今後は市町村に立ち入り調査権が与えられ、空き家の所有者への撤去・修繕命令や強制執行も可能になる
▼確かに近年、都市部、農村部を問わず、倒壊の危険さえ感じさせる空き家が目立ってきた。草木が伸び放題に繁茂し、ツタ類が覆い隠さんばかりの廃屋も少なくない
▼空き家問題そのものからはずれるが、そんな廃屋を見るにつけ感じるのは、人間の営みの痕跡を打ち消すように侵食する植物の脅威だ。そもそも植物の生命力は強く、アスファルトの割れ目から生え出たり、踏まれてもきれいな花を咲かせたりと、そのたくましさには目を見張る
▼もちろんそうした生命力が人々に勇気や希望を与えることもある。東日本大震災の折には、岩手県陸前高田市の高田松原で津波に流されず残った1本が「奇跡の一本松」と呼ばれて復興のシンボルともなった。残念ながらその後、根が塩分で腐り枯死状態となったが、今では種子や接ぎ木による後継樹の育成も試みられている
▼その時々で様々に印象を変える植物。仏作家ミシェル・ウエルベックはその傑作小説『地図と領土』(筑摩書房)の末尾で、植物の「完全な勝利」による世界終末のビジョンを示している。近未来の2046年、主人公の芸術家ジェドが最後に残した作品は、繁茂する植物の中に工業製品が沈んでいく長回しの映像だった。「破壊され、砕けていき、無限に広がる一面の植物の中に散っていく」都市。「幾層にも重なった植物の茂みに沈んでいき、一瞬身をもがくかにみえるがやがて息の根を止められる」思い出の写真。そうしたものを映し出すビデオ映像を「人類全体の消滅を象徴するよう」とペシミスティックに表している
▼植物の生命力こそ侮るべからずということか。あちこちで見かけるようになった廃屋が、そんな荒涼たる映像と重なって、しばし怖くなった。

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