コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

  1. ホーム
  2. コラム「復・建」

2015/07/14

銚子電鉄「ぬれ煎餅」の美談

▼鉄道と煎餅―。何とも奇妙な取り合わせだが、ここに小さな煎餅が鉄道を救った美談がある。ご存知の方も多いだろうが、銚子鉄道と同社が販売する「ぬれ煎餅」がそれだ▼銚子電鉄は1922年の設立で、銚子市内に本社を置く。その名のとおり千葉県の最東端の銚子市を走る、全長6・4㎞の小さな私鉄である。昭和30年代には年間250万人以上の乗客があったが、過疎化や観光客の減少で、平成に入ると100万人を切り、赤字路線となった
▼2006年には当時の社長の横領などが発覚。国土交通省の保安監査も入り、安全管理に関する改善命令も出された。「3か月以内に線路・踏切などの改修をしなければ運行停止。会社にとっては〝死刑宣告〟と言うべきものだった」と同社は述懐する
▼こうした絶望的な状況下で会社を救ったのが、95年から副業として製造・販売していたぬれ煎餅だった。電車を走らせるために、社員が来る日も来る日も「買ってください、買ってください」と必死に売り歩いたが当初は売れず、現実の厳しさを思い知らされることに……。しかしある日、パソコンを開くと、膨大な数の注文メールが入り始めた。その3日前からホームページで煎餅の購入を呼びかける書き込みをしたのがきっかけだった
▼その後、マスコミなどでも紹介され、ぬれ煎餅は爆発的な売り上げを記録。この売り上げによって、車両の法定点検や老朽化施設の改修などの費用も賄うことができたという。ホームページに書き込んだ「ぬれ煎餅を買ってください。電車修理代を稼がなくちゃいけないんです」という言葉は、『現代用語の基礎知識』にも収載され、語り草となっている
▼実は筆者も最近、すっかりぬれ煎餅のファンになってしまった。けれどそれは、美談ゆえでなく、ぬれ煎餅そのものの魅力、単純においしいからだ。病みつきになる味とはこのことを言うのだろう。本業の鉄道事業はいまも厳しい経営状況にあるようだが、ぬれ煎餅を守るためにも、ぜひ頑張ってほしい。

会員様ログイン

お知らせ一覧へ