コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2015/09/29

犬猫長寿化でも消えぬ悲しみ

▼先週21日は敬老の日だったが、長寿が進んでいるのは人だけではない。国内で飼われる犬猫の平均寿命は14歳を超え、犬は30年前の2倍近くに延びている。ペット用品各社も、軟らかい食べ物や臭い対策品など、犬猫にも飼い主にも優しい商品を拡充しているそうだ
▼ペットフード協会の調べでは、2014年の犬の平均寿命は14・2歳、猫は14・8歳。大手ペット用品会社によれば、国内の飼育猫約1千万匹のうち、18歳以上は約36万匹。11年の約1・6倍で、17年には約44万匹に増える見込みという
▼一般に7~8歳で高齢とされた犬猫だが、室内飼育が増えて事故や病気の危険性が減り、急速な長寿化が進んでいる。確かに住宅地などを歩いても、庭先の犬小屋につながれた犬の姿を見ることは少なくなった
▼とりわけ猫向けのペットフードでは、18歳以上(人の年齢なら88歳以上)を対象とする新商品もお目見えした。その名も「腎臓の健康維持用 20歳を過ぎてもすこやかに」。これからは二十歳(はたち)以上の長寿猫も珍しくなくなりそうだ
▼犬に関しても1980年のデータでは平均寿命が3・7歳だったというから、実に4倍近くまで延びている計算だ。筆者の実家で飼っていたポメラニアン犬は昨年17歳で死に、それこそ大往生だと思っていたが、そう遠くなく平均寿命と大差なくなってしまうのではないか
▼大の愛犬家だった仏作家ロジェ・グルニエは「ユリシーズの涙」(みすず書房)の中で、こう書いている。「犬という相棒は、そのライフサイクルの短さゆえに、毎日毎日われわれに『死を忘れるなかれ』というエゴイズムではなしに、『わたしはもうすぐ死ぬのです』ということを教えてくれる」
▼ペットの長寿化によって今日、この教訓は消え去ろうとしているのだろうか。おそらくは否。なぜならペットと同様に、私たち人間の平均寿命も確実に延びているのだから。ペットの死がもたらす喪失の悲しみは、両者の長寿化で少しばかり薄まりこそすれ、消えることはなさそうだ。

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