コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

  1. ホーム
  2. コラム「復・建」

2015/11/24

驚嘆すべき千日回峰行

▼1979年にテレビ放映された「千日回峰行」のドキュメンタリー番組で、その壮絶さに驚嘆した記憶がある。以来、天台宗総本山・比叡山延暦寺の荒行「千日回峰行」は、尊崇の念とともに筆者の心に刻まれてきた
▼この荒行に挑んでいる延暦寺の善住院住職、釜堀浩元さん(41)が先月21日未明に「堂入り」を達成した。千日回峰行のうちでも最大の難行で、比叡山中の無動寺谷明王堂に9日間こもり、断食、断水、不眠、不臥のまま、仏の徳を表す不動真言を10万回唱えたとされる。達成は8年ぶりで戦後13人目という
▼千日回峰行は、比叡山の峰々を1千日かけて4万㎞巡る、天台宗で最も厳しい行だ。4万㎞とは実に地球1周分にもなる。文字通り死を覚悟で続ける極限の修行で、途中での失敗は死を意味することから、行者は短刀を携帯し、白装束で修行にあたる
▼以前観たドキュメンタリーは延暦寺・三宝院住職の酒井雄哉さん(故人)の記録だったが、毎日3~4時間の睡眠だけで7年間にわたり、比叡山の山中を毎日午前2時に出発し、真言を唱えながら260か所で礼拝しながら歩き続ける。毎日30㎞を6時間で歩き、それを4年間続ける。その精神力にはただただ恐れ入るばかりだった
▼「堂入り」は700日の修行を終えた行者が臨み、達成すると生身の不動明王になるとされる。9日間の苦行の果てに何が見えるのか、凡人には想像もつかない。法悦どころか、それすら超えた境地に達するのかもしれない。鐘の音とともに堂を出て、一歩一歩踏みしめるように現れた釜堀さんの姿に、テレビの画面越しではあるが、身の引き締まる思いだった
▼とはいえ、千日回峰行はこれで終わりではなく、順調なら17年9月に満行を迎える。2年後の満行の知らせを心待ちにしたい
▼千日回峰行を2度も満行した酒井さんはかつてこう語った。「回峰行で得たものは何もない。だけど、おかげで今がある」。人生とは一つひとつの地道な積み重ねなのだと言いたかったに違いない。

会員様ログイン

お知らせ一覧へ