コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2017/01/24

SNSで火が付いた濃溝の滝

▼SNSにアップされた1枚の写真が火付け役となり、人気の観光スポットとなった君津市の「濃溝の滝」。都心から1時間余りの場所にこんなに美しい秘境があるのも驚きだが、その存在を広く知らしめたネットの力も今更ながら侮れない
▼最近は週末になると訪れる車で近くの県道が渋滞するほどの人気というが、筆者が訪れた昨年末も駐車場は満車で、観光バスも何台か来ていた。係員の誘導で駐車した先は、地域の住民が協力して用意した臨時駐車場。地域にとっては渋滞も深刻だが、誘導員の確保にも苦労していると聞く
▼駐車場から歩いて5分ほどの場所にある濃溝の滝は「亀岩の洞窟」の下を流れ落ちる。洞窟は約350年前の江戸時代前期に水田に水を引き込むために掘られた。高さは15mほどで、滝に亀に似た岩があることから「亀岩の洞窟」と名付けられた
▼やや足元の悪い川岸に降りると、多くの来訪者が洞窟に向けてシャッターを切っている。時刻や日差しなどの具合で洞窟と滝は様々な表情を見せる。3月と9月の早朝には、洞窟に差し込む光が水面に写り込んで横を向いたハート形にもなるという。筆者が訪れた日もわずか十分ほどの間に微妙にその姿を変えていった
▼この洞窟、もとは川廻しのため掘られた隧道で、湾曲した河川のくびれの部分をトンネルによって短絡させることで、川底に段差ができ、小さな滝ができたと考えられる。いわば人の手による土木工事の遺産ともいえるが、素掘りの素朴な姿が逆に幻想的な景観を生み出している
▼1枚のSNSの写真によって「まるでジブリの世界のよう」と評判になり、マスコミでもしばしば取り上げられ、一気に拡散した。新しい施設ができたわけでもないのに、いままで話題にも上らなかった場所が新しい観光スポットになっていく過程が、いかにも現代らしく興味深い。周辺はすでに清水渓流広場として整備されているが、今後も地域の喧騒を損なわない形で、さらに人気の観光拠点として定着することを期待したい。

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