コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2017/08/22

納涼と美術のうらがわ

▼暑い夏に幽霊や妖怪などで納涼気分に浸るのが好きな方も多いだろう。千葉市美術館で開催中の展覧会「いま/むかし うらがわ」(27日まで)に、筆者も涼を求めて足を運んだが、その題名の〝うらがわ〟には想像外の多種多様な深い意味があった。もちろん、それはそれで酷暑の季節にふさわしい展観だった
▼目に見えないものを指す「うら」という言葉にかけて、この世の「うら」を描いた怪談や、表に見えないひとの「心(うら)」を印象深くとらえたもの――これが本展の狙いだという。江戸時代から現代までの美術作品の表を支える裏のテクニックやスケッチなども多数紹介されている
▼たとえば月岡芳年(1839~92)の晩年の傑作「風俗三十二相」などは、女性たちが見せる多様な表情をテーマとし、その怪しい美しさからは怖さとは一味違う納涼感が味わえる。「けむたそう」「うるさそう」「いたそう」「あいたそう」など「○〇そう」という題名が各作品に付けられている
▼宮島達夫作「地の天」は、デジタルカウンターを素材に用い、展示室の床に広大な星空を表現したインスタレーションの大作。暗い展示室に入るや、特殊なプラネタリウムに足を踏み入れたような異空間に誘われる。その題名どおり、数字と化した天空の星が地に反転したような不思議な世界が広がる
▼ほかにも不思議な素材や驚きのエピソードなど、美術作品に隠された様々な秘密が満載だ。これらも知られざる制作のうらがわと言えよう
▼冒頭で触れた〝怖いもの見たさの納涼〟という意味では、一般的に「がしゃどくろ」として知られる歌川国芳の浮世絵「相馬の古内裏」が目を引く。がしゃどくろは死者たちの骸骨や怨念が集まった巨大な骸骨の姿とされ、「相馬の古内裏」の骸骨ががしゃどくろのイメージとして20世紀後半から定着してきたが、正確には両者に関連はない。いずれにせよ、等身大のたくさんの骸骨を1体の巨大な骸骨として描いた国芳の作品は迫力満点で、背筋をゾクッとさせられる。

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