コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2018/01/30

マグロとシビ

▼すしのネタや刺し身として人気が高いクロマグロ(本マグロ)。未成魚の乱獲により資源量が激減し、いまや高嶺の花と化したのは周知のとおりだ。漁獲規制はクロマグロ消費国の日本には頭が痛いが、規制の順守が資源回復に有効であることも明らかになってきた
▼大西洋クロマグロは激減により関係国が漁獲枠を設け、量を減らした。その結果、活発な産卵で数が増え始め、今後3年間で枠の5割拡大が決まった
▼一方の太平洋クロマグロは今も減少が深刻で、資源量の回復状況に応じて漁獲枠を増減させる新たな漁獲規制が検討されている。新たな規制では管理を徹底して、資源量が順調に増えれば規制が緩和されるが、ルールを守れず獲りすぎてしまえば逆に規制が強化される
▼日本が消費するクロマグロは大西洋が4割、太平洋が6割を占める。大西洋からの供給が戻るうちに、太平洋での厳格な漁獲制限により資源量を回復させたいところだ
▼日本人のマグロ好きはつとに有名で、消費量は世界の生産量の約4分の1にも及ぶ。もっとも、マグロ好きは昨日今日に始まったことではない。約5000年前の縄文時代の貝塚からもその骨が出てくるほど、古くからマグロは我々にとって身近な魚だった
▼最近になって知ったが、日本書紀などでは「鮪」を「シビ」と読んでいた。マグロ一般を指す言葉でもあるという。昔かたぎの職人などは今でも「良いシビが入ってますよ」などと言うそうだ
▼ただ、シビは「死人」や「死日」を連想させることから、公家や武士から敬遠され、庶民も隠れて食べていた。今ではすしや刺し身の花形ともいえるマグロにそんな日陰の時代があったとは驚きだ。江戸時代後期に足の早いマグロをどうしようかと知恵を絞ってヅケが考え出されたころから、すし文化が花開き、マグロも市民権を得たようだ
▼ベテランのすし職人の方に「マグロはシビと言うそうですね」と話を向けてみたところ、「よくご存じ。シビなんて言葉を聞いたのは久々ですよ」と返された。

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