コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

  1. ホーム
  2. コラム「復・建」

2018/08/21

「舌切り雀」発祥の磯部温泉

▼専門新聞団体の研修会で先月、群馬県南西部に位置する磯部温泉を訪れる機会があった。聞けば、この温泉には昔話で有名な「舌切り雀」の伝説が伝わるという。伝説とはいえ、「舌切り雀のお宿」と称する旅館もあり、驚いたことに、その展示室には絵巻のほか、年季の入ったはさみやつづらなどゆかりの品々まで展示されている
▼よく知られるように「舌切り雀」の話は、おばあさんに舌を切られた小雀を哀れに思ったおじいさんが舌切り雀のお宿を訪ね、そこで雀たちから大歓迎を受けるという動物報恩譚の一種だ。また、欲張って大きなつづらをもらったおばあさんが怖い目にあうという教訓を含んだ物語でもある
▼類似の話は様々なヴァリエーションで全国各地に伝わるが、多くの民話がそうであるように、この話も本来言い伝えられてきたものはかなり残酷でグロテスクな内容を含んでいた。おじいさんは雀のお宿を探すために何人もの人に道を尋ねるが、彼らは引き換えに馬の血や牛の小便をおじいさんに飲ませるといった場面もあった
▼明治時代以降、子どもにふさわしい物語とするために過激な部分が削除され、おとぎ話としての形が整えられた。おとぎ話にはこのように、時代背景や世相に伴い内容が改変されていくものが多いと言われる。こうした傾向は、グリム童話など古今東西の話によくみられる
▼「舌切り雀」に限れば、明治時代の文豪、巌谷小波(いわやさざなみ)の存在が大きく、巌谷は磯部温泉に逗留し、児童文学としての舌切り雀を書き上げた。その際、巌谷がこの温泉を舌切り雀伝説発祥の地として折り紙を付けたことから、それ以来、両者の結びつきが深まったようだ。この温泉逗留の折には「竹の春 雀千代ふる お宿かな」の句を詠んでおり、その句碑が現地に残る
▼清冽な碓氷川が流れ、背後に険阻な妙義山が望まれる磯部温泉は、温泉マーク発祥(♨)の地ともされている。群れて空を飛び回る雀の姿を宿の窓から眺めれば、いつも見る雀とはまた違う感興をそそられる。

会員様ログイン

お知らせ一覧へ