コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2018/12/18

稲わらの書画体験

▼専門新聞団体の研修の一環で「稲わら書画」を体験する機会があった。稲わらを使って文字を書くという初体験に、筆者を含む一行は悪戦苦闘しながらも、自らしたためた文字に表れる、神秘的ともいえる力強さや優しさに魅せられた
▼今回の書画体験は三重県度会郡玉城町にある書画教室で行われ、指導にあたったのは、浄心流雲龍・爪橋靜香宗家とその門下生たち。書道紙に何度も繰り返す練習段階から色紙に書く本番まで、終始、丁寧な指導を受けた
▼筆に使う稲わらは、1989年の伊勢湾台風の際、伊勢神宮の新田の中に2株だけ残った稲からとった「伊勢ひかり」の流れをくむ。地元の神岳(かみがたけ)の水で育て収穫したものを乾燥させて使っている。稲わらを束ねて筆とし、根元に墨を含ませて和紙の上に滑らせたところ、思いがけない面白さと独特の味わいが醸し出されたのが始まりという
▼宗家の爪橋さんは、書画のほか、茶道や華道、和裁など日本の伝統文化を総合的に伝えようと活動している。1988年(辰年)の正月に稲わらを使って文字を書いたことがきっかけで、浄心流雲龍を興し宗家となった。2003年には茶室「竹光庵」をつくり、子どもから大人まで多くの人たちに、稲わら書画をはじめとする日本の伝統文化を教えている
▼今回の書画体験でも、筆者ら一行は簡素で美しい茶室に通され、お茶を点てていただく丁重なもてなしを受けた。俗塵を離れ清々しい気分で書画体験に向き合えたせいか、手前味噌ながら実力以上の文字が書けたように思う
▼書画に指導にあたる爪橋さんからは、80歳を超えていまなお衰えぬ好奇心と童心を忘れぬ純粋さが感じられ、そうした情熱に、筆者らの筆も我知らず突き動かされていたと言えるかもしれない
▼「清風萬里秋」「先憂後楽」「着眼大局着眼小局」など、思い思いに座右の銘をしたためた一行は、書画体験を通じて、和紙の持つ優しさや美しさ、墨色の輝き、さらにはわら筆との融合による変化の面白さを十二分に堪能することができた。

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