コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2020/05/24

疾病との闘いの歴史

▼人類の歴史が感染症(疫病)との闘いであったことは以前、小欄でも触れたが、科学が進歩した今日でもウイルスが依然として見えざる敵であることに変わりはない。現代の私たちでさえそうなのだから、いにしえの人々にとってその恐怖はいかばかりだったろう
▼日本で最初に疫病の記述が見られるのは「日本書紀」で、崇神天皇の時代に疫病で半数以上の人が亡くなったとある。「神が咎を与えているのではないか」と、天皇は大田田根子という人物に大物主神をまつらせ、疾病がおさまった
▼疫病はこのように社会に災いを与える神や怨霊の仕業とされ、まじないや神頼みだけが対処法だった。古く土器や装飾品にまじないのようなデザインが施されているのも、目に見えない脅威を超自然の力で防ごうとした証だろう
▼735~737年には天然痘が全国で猛威を振るい、総人口の3割前後が死亡したとも言われる。863年にはインフルエンザと思われる「咳逆」が、さらに998年には日本で初めてはしかが流行した。平安~室町時代には疫病の流行を理由に何度も改元が行われた
▼近世以降は1858年にコレラ、62年にはしか、1918~20年にスペイン風邪が大流行するなど、歴史上の疾病は私たちが知りうるものだけでも枚挙にいとまがない
▼作家の吉村萬壱氏は、ウイルスへの恐怖の感情についてこう語る。誰が感染しているかもわからず、同時に自分も感染者かもしれないという疑念が湧き起こる。そうした恐怖に加えて「果たしてこの先、生活していけるのかという生存の恐怖がある」と
▼思うにこの「生存の恐怖」こそ、いまの私たちが直面する最大の恐怖ではあるまいか。吉村氏は「ある飲食店主は自らの先行きに関して『震えるほど怖い』と言っていた」と書いているが、新型コロナウイルスの感染拡大では、こうした感覚が多くの人に共通するものであるに違いない。ウイルスが感染そのもの以外にも、かくも多くの恐怖を伝播させていく怖さを、改めて痛感させられる。

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