コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2021/01/13

歴史のものさし「年縞」

▼日建連が国内の優秀な建築作品を表彰する「第61回BCS賞」に、福井県年縞博物館(福井県若狭市)が選ばれた。その外観写真を見て建物の素晴らしさは一目で納得理解できたが、不勉強ながら「年縞」とは何ぞやと、その館名にしばし首をひねった
▼調べてみると「年縞」とは、長い年月の間に湖沼などに堆積した層が描く湖底堆積物の特徴的なしま模様のことで、1年に1層形成される。これが、出土物などの年代を測定する上で年代の標準として不可欠なものだという
▼話は少々ややこしくなるが、出土品などの時代測定の手段の一つに「放射性炭素年代測定法」がある。いわゆるC14(カーボンフォーティーン)と言われる測定法で、時間の経過とともに一定のペースで減少する放射性炭素の残量を測定し、年代を逆算する手法だ
▼ただ、この測定法では時代によって数百年から数千年のズレが生じるのが難点だった。このズレを修正するには「年代ごとの正確な放射性炭素の量」が整った年代標準が必要で、その物差しが「年縞」となる
▼冒頭で触れた福井県年縞博物館の近くには、奇跡の湖と言われる「水月湖」がある。河川の流入がない珍しい環境で、プランクトンの死骸や鉱物といった堆積物が湖底に溜まり、1年で1㎜ほどの明暗のしま「年縞」が実に7万年分刻まれているという
▼水月湖の年縞データは、C14の国際的な物差しとなる「較正(校正)曲線」(IntCal=イントカル)として2013年版に約400点のデータが採用され、現在も最重要データに位置付けられている。考古学や地質学における「世界標準の物差し」として、年代測定の精度を飛躍的に高めた
▼そういえば筆者の学生時代、考古学の教授がC14についてしきりに語っていたのを思い起こした。あれから数十年の間も、C14は年代測定の分野で欠くべからざるものであり続けたようで、今では日本国内のデータがその精度の向上に役立っていると知って、何とも誇らしい気分になった。

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