コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2021/03/23

今こそ生かすべき「背もり」

▼児童虐待など痛ましい事件に胸ふさがることの多い昨今だが、遠い昔の風習を復活させて子育てを応援する活動などを知ると、ほっとする。子どもに対する親の思い、ひいては愛する身近な人への思いとは、本来こうしたものではなかったか
▼「背守り」の風習もその一つと言えるだろう。子どもの健やかな成長を願って、子どもの着物の背中に魔除けの刺繍を施すもので、家紋や縁起のいい柄などが選ばれた
▼明治時代までこの風習が残り、ファッションとしても親しまれたが、洋服の普及とともに忘れ去られた。しかしコロナ禍の中、出産祝いを通して地域で生まれた赤ちゃんに「背守り」を贈るNPO法人などが出てきている。生まれてくる新しい命を思いながら、世代を超えた参加者が一針ずつ丁寧に縫い上げているそうだ
▼「背守り」は日本に古くから伝わり、最も古い例では、鎌倉時代の絵巻「春日権現験記」の巻第十六・第四段に見られる。魔道に落ちた僧侶が女人に憑いて春日明神の御利益を語る場面で、その門前を通りかかる、親に手を引かれた一人の子どもの背に「背守り」とみられるものが描かれている
▼大人の着物の背には縫い目があるが、布一枚で済む子供の服にはない。縫い目は魔除けの力を持つと信じられ、背中から悪いものが入ってこないように、親は子の着物の襟から背に縫い目や文様を施したり、裂(きれ)や押し絵を付けたりした。江戸時代の浮世絵にもしばしば描かれ、広く行われた風習だったようだ
▼「背中は自分では見えないので弱点ともなり、本能的に保護しようとする意識が働く。人間が衣服を着るようになってからは、原初的な形で背守りが存在し、多様に展開した」と、専門家は分析する
▼言うまでもなく、子どもの無事を祈る親心は国や民族を問わない。幼い命を亡くすことも多かった昔には、そうした思いもなおさら切実だったに違いない。「背守り」という風習の復活を見るにつけ、私たちもそこに込められた古くからの願いを改めてかみしめたいものだ。

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