コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2021/11/16

愛と平和貫いた一生

▼訃報に接し、これほど喪失感を覚える存在だとは正直、思っていなかった。作品の熱心な読者とも言えないが、言動を見聞きするたびに引きつけられ、説得力と熱量に圧倒された。その作品や言動に救われた人は少なくないだろう
▼作家で僧侶の瀬戸内寂聴さんが9日に99歳で亡くなった。まさに波乱万丈と言える生涯だった。その生き方には賛否あるかもしれないが、自立した女性の先駆けとして見事に駆け抜けた
▼生涯をくくる言葉を挙げれば、「愛」「自由」「平和」だろう。信念は一切ぶれず、女性作家が数えるほどしかいなかった時代から、愛に生き、人生をペン1本で貫いた
▼1957年の小説「花芯」は性描写が話題を呼び、「子宮作家」とのレッテルを貼られた。不遇の時期を経て、作家・岡本かの子らの伝記小説で飛躍を遂げた。いずれも、自身と重なる旧習にとらわれない自由な女性像を生き生きと描き出した▼51歳の突然の出家以降は、反戦の声を上げ、91年の湾岸戦争の際には京都・嵯峨野の寂庵で1週間ほどの断食を敢行。自腹で新聞に意見広告も出した。東日本大震災では、被災地の小学校を回り、被災者たちに寄り添い、脱原発運動にも加わった。晩年まで法話を続け、87年からは岩手県二戸市の天台寺の住職を務めた
▼小説では岡本かの子のほかにも、女性解放運動家の伊藤野枝、大逆事件で死刑になった管野スガ、新橋の芸者から尼僧となった岡本智照など、小説のモデルに女性が少なかった時代に光を当てた。70歳から6年半をかけて源氏物語の現代語訳に挑み、晩年には「人生で一番うれしかったのは、世界に誇れる文化遺産の源氏物語を訳せたこと」と語っていた
▼19世紀の仏作家スタンダールが自らの墓碑に「書いた 愛した 生きた」と刻んだことは知られるが、寂聴さんは天台寺にある墓に「愛した 書いた 祈った」と碑銘を記すことを決めていたそうだ。愛と平和を求めた女性作家の生涯を端的に表す言葉として、まことにふさわしい。

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