コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2013/03/19

スクロール、再び現代に

▼技術は進歩しているようで、方法論はいにしえの焼き直しだったりする―そんなケースもあるのではないか。似ても似つかぬ外見となっていても、根本はかつて存在したもの。それは、知らず知らずの原点回帰といえるかもしれない
▼ルネサンスの引き金となった書物とひとりの男との奇跡の出会いを描いた物語「一四一七年、その一冊がすべてを変えた」(柏書房)の中で、そんなことを考えさせられる記述に出合った
▼本は古くはたいてい巻物の形だった。現在でもユダヤ教徒が礼拝で使うトーラーは巻物だというが、そうした例外を除けば、巻物の本はとうに失われた。4世紀にキリスト教徒たちがコーデックス(冊子本)という形式に切り替えたことが、現在の本の起源だそうだ
▼冊子形式の本は、目的の個所を見つけるのが容易という利点があり、頁番号や索引をつけることですばやく読みたい場所にたどり着ける。検索機能を持つコンピューターが発明されるまでは、冊子の本は単純・柔軟な形式で、その地位を脅かされることはなかった。ところが今になってわれわれはふたたび「巻物(スクロール)」形式で文章を読むようになったと、この本の著者はいう
▼なるほど、と唸ってしまった。気がつけば、われわれは日々、ITの世界で巻物に触れ合っているのだ。そんな中で電子書籍など冊子形式の本を読む不思議さも考えさせられる。おまけに現代のこの“巻物”は、かつて考えられなかった高度な検索・蓄積機能を備えているのだから、やはり単純に原点回帰とは片づけられない気もしてくる。

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