コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2013/07/01

鎌倉文化遺産落選

▼先日は富士山の世界文化遺産登録で、地元のみならず日本中が沸き立った。誰もが認める日本のシンボル。ようやくの感なきにしもあらずだが、とにもかくにも、晴れて登録はめでたいの一言に尽きる
▼富士山登録の影で、残念だったのが「武家の古都・鎌倉」(神奈川県)の落選だった。鎌倉は学生時代からしばしば散策に訪れた街。国際記念物遺跡会議(イコモス)から「不登録」を勧告されたのは、「武家の政権が存在した物的証拠がない」との理由だ。その存在を疑ったこともなかったが、確かに「権力の物的証拠」を目に見える形にしろと言われると難しい
▼「証拠」として改めて注目されているのが、源頼朝から実朝までの将軍が政(まつりごと)を行った「大倉幕府」と呼ばれる御所跡だという。鶴岡八幡宮の東、約7haの敷地にあったと推定されている。費用と時間を要するだろうが、幕府跡を武家政権の出発点と位置づけ、ぜひ調査を進めて構成資産に組み入れてほしい
▼筆者が今回の「不登録」勧告の報に接したのは、偶然にも十何年かぶりで鎌倉を訪れていたゴールデンウイークのさなかだった。長谷寺界隈を巡ったが、人も車も数珠つなぎ。帰りには鶴岡八幡宮への参道「若宮大路」も通ったが、こちらも大変な人出だった。鎌倉は都心近郊の観光地として相変わらず人気が高いと実感した
▼鎌倉は意外にも小さな街で、細い路地が多い。起伏も激しく、郵便配達人や宅急便業者が狭い道に車を置いて、高台の屋敷へ駆け上がる姿を何度も見かけた。普段は静かで落ち着いた街が世界遺産に登録されれば、ますます騒がしくなり、恩恵を被る住民ばかりではないだろう。実際、登録への根強い反対もある
▼今回の「不登録」勧告を受け、政府は推薦を取り下げ、再挑戦を目指す。クリアすべき課題は少なくないが、それでも古都・鎌倉の一ファンとしては、いずれ世界遺産登録の日がくることを願わずにはいられない。それで鎌倉の価値が世界に認知され、歴史的遺産が末永く守られるのであるならば。

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