コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2013/11/05

新時代の辞書

▼言葉のプロが編集する、お堅いイメージの国語辞典にも、新たな試みが採り入れられている。小学館がいくつかの言葉について、「生きた解釈」ともいえる語釈を一般公募し、それがデジタル版の「大辞泉」に収録されるという。人によって解釈の異なる言葉を様々な角度から捉え直すことで差別化につなげるのが狙いだそうだ
▼応募による投稿を見ると、たとえば「愛」なら「誰もが努力次第で持ち得るもの」、「自由」なら「義両親と同居でないこと」、「友だち」なら「別れない恋人」といった具合だ。投稿者の思いがにじみ出て、思わずうなずいたり、ほくそ笑んだりしてしまう。投稿者の顔が透けて見えそうなリアリティがある。言葉本来の意味からは外れるにせよ、時とともに移ろう〝生き物〟としての言葉の側面が如実に表れている
▼これまでにも読み物として楽しめる辞典はあり、三省堂の「新明解国語辞典」がその先駆けだった。これまでに最も売れた小型国語辞典といい、たとえば「公僕」なら「(権力を行使するのではなく)国民に奉仕する者としての公務員の称。(ただし実情は、理想とは程遠い)」と、ただし書きが効いている
▼こうした私的辞書や個性派辞典を突き詰めていくと、自由な語釈は「警句」「箴言」の領域に近づいていく気がする。米国の作家ビアスの有名な警句集「悪魔の辞典」(1911)では、たとえば「愛」なら「一時的な精神異常で、結婚させるか、または錯乱を招いた原因である影響者から隔離することで治癒できる」、「友情」なら「天気がよければ二人乗れるが、悪いと一人しか乗れない程度の大きさの船」、「自由」なら「無限に存在する拘束手段の中のわずか半ダースほど、権力の抑圧から逃れること」
▼風刺と皮肉のスパイスたるや強烈だが、これまた、なるほどとうなずくことしきりだ。20世紀初頭の刊行から1世紀を経て、すでに普遍性を得たかの警句集。言葉は刻々移ろっているようでありながら、案外、本質の部分では変わらぬ証しのようにも思われる。

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