コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2020/01/15

ネズミの多彩な役どころ

▼年賀状などに描かれた干支の動物たちを見ると、その絵柄の多様さに驚かされる。対極的と思える造形でさえ、子は子(ネズミ)、丑は丑(ウシ)、寅は寅(トラ)と、まことそれらしく見えるところに感心する。今年の干支のネズミは、とりわけ幅広い造形表現を許容する動物らしい
▼それも、ネズミが嫌われ者のマイナスイメージから愛らしいイメージまでさまざまな役どころを備えているからだろう。そうした振り幅はもちろん人間が作り上げたものに違いないが、裏を返せば、ネズミは私たちの生活・文化にそれほど密接にかかわってきた
▼敵対の歴史では、日本では縄文人が栽培を始めた頃からネズミの食害との戦いがあった。貯蔵した穀物などを食い荒らすネズミに対し、弥生時代には高床倉庫にネズミ返しを設置するなどして対抗した
▼猫が渡来すると、猫を使ってネズミを退治する「ネズミ対猫」の構図が生まれた。猫の渡来は従来、奈良~平安時代と言われてきたが、長崎・壱岐島の弥生遺跡でイエネコらしき骨が出土したことから、一気に数百年さかのぼることになった
▼鎌倉時代の兼好法師は随筆『徒然草』の中で「身に虱(しらみ)あり。家に鼠(ねずみ)あり」と書いてネズミを嫌った。中世ヨーロッパでは、伝染病を媒介することなどから、悪魔と結びつく禍々しい生きものとして扱われた
▼一方で、ネズミを小さな隣人として親しむ側面も古くからあり、小さいゆえに不思議な力を持つ存在としてとらえられてきた。『古事記』や『枕草子』などにもネズミが登場し、「おむすびころりん」などの題名で知られる説話「鼠浄土」では、ネズミたちが穴の中の楽園で生き生きとした姿を見せる
▼江戸時代以降はペットとしても飼われ、またシロネズミ(ラット)は実験動物として医学や生物学などで役立ってきた
▼かように愛されたり厭われたり忙しいネズミだが、それゆえ擬人化しやすい存在でもあるのだろう。アニメや漫画などで饒舌なのは、たいてい猫や犬よりネズミと相場が決まっている。

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