コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2020/07/14

追悼!映画音楽の巨匠

▼映像が浮かべば旋律が鳴りだし、旋律を耳にすれば映像がよみがえる。そんな得がたい経験を幾度となくさせてもらった。映画と音楽にとって、これほど幸福な関係というものもなかっただろう
▼数多くの映画音楽を生み出したイタリアの作曲家、エンニオ・モリコーネ氏が7圧6日、91歳で亡くなった。手がけた映画音楽は400本以上にのぼり、「荒野の用心棒」「夕日のガンマン」「ワンス・アポン・ア・タイム・イン・アメリカ」「ニュー・シネマ・パラダイス」「アンタッチャブル」「海の上のピアニスト」など、名作だけでも数え上げればきりがない。アカデミー賞も受賞し、映画音楽界の巨匠といえる存在だった
▼セルジオ・レオーネ監督とのコンビで一躍有名になったマカロニ・ウエスタン3部作は1960年代。それから優に半世紀以上の間、世界の映画音楽を引っ張ってきた。音楽によってその価値を引き上げられた作品も少なくないだろう
▼なかでもとりわけ忘れがたいのは、やはり「ニュー・シネマ・パラダイス」(88年)だ。あの哀感あふれる流麗な旋律は、映画の素晴らしさと相まって、いま聞いても色褪せることなく心を揺さぶる。作品の芸域は多彩だが、とくに印象的なのは「ニュー・シネマ・パラダイス」に代表される、ノスタルジーをそそる哀切な旋律だ。音楽を聴くだけで、記憶の中の映像を通して胸が熱くなる旋律とはそうあるものではない
▼聞くところでは、晩年は早寝早起きで、朝に運動や作曲を行うという規則正しい生活を送っていた。愛妻家でも知られ、チョコレート好きの一面も。意外にも映画の暴力・流血の場面を嫌い、「荒野の用心棒」に対しては公開当時から一貫して俗悪な映画と断じていたという
▼数か月前まで作曲を続けていたが、数日前に転倒して大腿骨を骨折し、ローマの病院に入院し治療を続けていたという。聴き手の感情を揺さぶるあの独特の旋律が、これからはもう生まれないと考えると残念でならない。残された数多くの名曲にじっくり耳を傾けたい。

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