コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2020/07/28

古にも「新生活様式」

▼新型コロナウイルスの感染状況が新たな局面を迎えつつある。23日には感染者数が全国で1日最多の795人に上り、東京都だけで感染者の累計が1万人を超えた。こうした状況下での国の観光支援策「Go To トラベル」開始は、何とも皮肉なタイミングと言わざるを得ない
▼しかもこの支援策はどう見ても見切り発車の感が否めず、観光業関係者のみならず大半の国民が混乱するような内容だ。これまでの新型コロナ対策の各種施策に関しても同様だが、いくら相手が未知の敵とはいえ、ピント外れや後手後手の施策が目立ち、これほど国の存在が頼りなく思えたこともいまだかつてない
▼さらに「第2波」「第3波」が予想を超えて襲ってくれば、生活や経済の行く末が不安でならない。ウィズコロナの合言葉もきれいごとにならないよう祈りたい。「新しい生活様式」なる感染対策は早急に進めるべきだが、それだけで十分と考えるのは楽観的に過ぎるだろう
▼ところで、歴史をたどれば、疾病による衛生意識の変化は何度も繰り返されてきた。天然痘がはやった8世紀前半の奈良時代には、疾病は鬼がもたらすものと考えられ、まじないの言葉や記号を書いた呪符木簡で退治しようとする一方、食器など感染者が触ったものを使い捨てていた可能性があるという
▼奈良文化財研究所が公式ブログに、平城宮跡近くの土坑で破損の少ない食器が多数出土されたと掲載した。藤原四兄弟の末弟・麻呂(695~737)の屋敷が近くにあったとされ、屋敷から捨てられた可能性が高いそうだ
▼当時、食器として使われた焼き物は汚れが残りやすく、繰り返しの使用は不衛生と考えられ、不特定多数の使った食器は使い回さない習慣があったのではないかと分析する
▼新型コロナでも新しい生活様式の実践例として大皿の取り分けを避けるよう明示されており、いまも昔も感染対策の基本は似ていたようだ。ここは、コロナ禍を体験している私たちだからこそ見える歴史があると前向きにとらえたい。

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