コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2020/06/18

疾病退治で話題のアマビエ

▼コロナ禍で一躍注目を集める妖怪がいる。「アマビエ」といい、その姿を描き出すと「感染封じ」につながるとされる。国内で感染が広がり始めた2月末、妖怪掛け軸の専門店がアマビエのイラストを描いてSNS上に投稿したのがきっかけとされる。いまやお菓子やぬいぐるみを作る人も現れ、厚生労働省まで感染予防啓発サイトのアイコンとして活用している
▼アマビエは、江戸時代の弘化3(1846)年に肥後(熊本県)の海中から現れたとされ、長い髪にくちばし、うろこを持ち3本足をした半人半魚の妖怪。一見、妖怪らしからぬ愛らしい姿にも見え、「もし疫病が流行したら、私の姿を描いた絵を人々に見せよ」と言って海中に消えたと伝えられる
▼アマビエの研究者によれば、記録では弘化3年発行の瓦版には「海から現れた」との記述だけで、「自分の姿を描けば病から逃れられる」といった表現はない
▼アマビエのルーツは「アマビコ」という別の妖怪にあるとみられ、アマビコに関しては全国に複数の記録が存在する。どうやら、かつてはこちらのほうが有名だったようだ
▼アマビコの最古の記録は天保14(1843)年の瓦版の写しで、海から出現して疾病を予言し、その姿を書き写すと無病長寿の効能があると記されている。明治初期にコレラが流行した際にも、アマビコの護符が販売された
▼同じように疾病の流行を予言する妖怪はほかにもいて、女性の顔に竜の体、剣の尾を持つ「神社姫」(1819年)や人の顔を持つ牛の妖怪「件」、1843年に3本足の猿のような「アマビコ」が流行するが、アマビエはこのアマビコを写し間違えたとする説が有力だ
▼科学が発達する以前、こうした災厄と闘うには人知の及ばぬ力にすがるしかなかった。考えてみれば、今回の新型コロナでもまだワクチンや特効薬はなく、妖怪にでもすがりたい思いに変わりはない。この苦しい環境下でアマビエが少しでも私たちに安らぎを与えてくれたなら、妖怪自身も本望とするところだろう。

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