コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2020/10/27

遠くなる秋の味覚

▼秋の味覚といえば、その代表格がマツタケだろう。国産は相変わらず「高根の花」だが、最近では世界各地から輸入され、比較的口に入りやすくなった。いつごろまでかは、マツタケが日本固有のものと思っていた人も多いのではないか。事実、店頭に並ぶ流通量の98%が中国や北米などからの輸入ものだ
▼ところが国際自然保護連合(IUCN)が7月に絶滅危惧種に指定し、再び遠い存在になりつつある。指定の理由は複数あるものの、意外にも山が豊かになったことが要因だという
▼IUCNの推計では、この50年で生息に適した場所が世界で30%以上減り、特に日本国内の収穫量は昨年で約14tと、1941年のピーク時の0・1%近くまで落ち込んでいる。開発に伴う松林の減少や、松くい虫による松枯れが背景にあるのは言うまでもないが、それ以上に、里山に人の手が入らなくなったことが大きいという
▼薪や枝葉、草が燃料として使われなくなり、落木や枯れ草が積もって土が肥えたせいで、痩せた土を好むマツタケが減った。人の手が入らないことが逆に絶滅に向かわせる要因になるとは皮肉としか言いようがないが、この場合も私たち人間の生活様式の変化などが大きく影響している
▼日本最古の歌集「万葉集」には、山にマツタケが群生し、その香りが一面に漂う情景を思わせる歌がある。マツタケの香りは古くから日本人を惹きつけ、室町時代には「応仁の乱」の最中にも公家たちはマツタケ狩りに興じていたとの記録が残る▼一方、海外ではマツタケの香りを不快と感じるらしく、「風呂に入っていない人の体臭」「足の蒸れた臭い」などと評されることが多い。日本人との味覚の違いに驚かされるが、それもこれまでは日本人にとって幸いなことだったのかもしれない
▼マツタケのみならず、マグロ類やニホンウナギも絶滅危惧種に指定されている昨今。日本人の好物に次々と包囲網が敷かれていくようで、この先、味覚の秋はますます寂しい季節になっていきそうだ。

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