コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2022/10/13

わが心のヒーロー死す

▼元プロレスラーで参議院議員も務めたアントニオ猪木さんの訃報に接し、どんなに強靭な肉体の持ち主にも必ず終わりが来ることを、いやがうえにも思い知らされた。病魔と闘う壮絶な姿を公開し、最後まで挑戦し続けた一生は、まさに「燃える闘魂」そのものだった
▼熱烈なファンの一人として思い起こされる場面は数知れないが、やはりプロレスラーとしての姿が次々と浮かぶ。筆者の中には格闘技路線も含めてプロレスラー猪木の〝不敗神話〟がずっと根付いていて、そのためか、負けた試合も記憶に鮮明だ
▼三つほど挙げれば、一つは1983年の有名な〝舌出し事件〟。IWGPの決勝戦で宿敵ハルクホーガンに必殺技のアックスボンバーを見舞われ、舌を出して失神状態に陥った。あまりの衝撃に、猪木は大丈夫か再起できるのかと、わがことのように心配したのを覚えている
▼二つ目は、78年の欧州遠征でのローラン・ボック戦。じりじりとロープに追い詰められ、受け身の取れないフロントスープレックスを食らうなどして判定負けを喫した。過酷なツアーで満身創痍だったと言われるが、ボックの強さを信じられない思いで観ていたファンは少なくないだろう
▼試合後、猪木もボックの強さを認めているが、それでもコンディションが良ければ、こんな展開にはならなかったはずだと今でも思っている。実際、このツアーで猪木はボックと3回対戦し、1勝1敗1分けで五分の戦いを演じたというから、筆者の中で猪木の不敗神話は辛うじて崩れ去ることはなかった
▼三つ目は、実際に会場で観た大巨人アンドレ・ザ・ジャイアントにフォール負けした試合だ。86年の千葉・稲毛大会での6人タッグマッチで、あっけなくフォールを奪われ、がっくり意気消沈して会場を後にした記憶がある
▼言い換えれば、猪木はそれほど勝ち負けを超越した傑出したレスラーだった。そんな強者も病魔には勝てなかったが、わが心のヒーローは色褪せるどころか、少しも輝きを失うことなく旅立った。

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