コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2014/05/19

アホウドリ

▼折しも愛鳥週間だった先週、小笠原諸島・媒島(なこうどじま)で絶滅危惧種のアホウドリとみられるひなが見つかったという記事を目にした。環境省などが2008~12年に伊豆諸島の鳥島から聟島(むこじま)へひな70羽を移しており、アホウドリと確認されればそうした努力が実ったことになる
▼鳥島だけでもかつては数百万羽が生息していたと言われるが、19世紀末以降の乱獲で、昭和の初めには鳥島にわずか数十羽しか生き残っていなかったといわれる。最盛期には年間20万羽、15年間で約500万羽、鳥島以外も含めると1000万羽近くが捕獲されたとの推定もある。これほど悲劇的な運命をたどった鳥も珍しい
▼乱獲の主な目的は輸出用の羽毛。当時の総輸出量は年間約300tで、1羽150g換算で約200万羽の計算だ。羽毛は欧米で取引され、布団や帽子などに利用された。鳥島には人足らが入植し、20世紀初めには小さな島に小学校や軽便鉄道まであったというから驚きだ。捕獲の手段も撲殺という原始的なものだった。地表での動きが緩慢で捕殺が容易だったためで、アホウドリ(阿呆鳥)の名もそうしたことに由来する
▼実際は全長1m近く、翼開張2m前後もある大型の海鳥で、全身が白い羽毛に覆われ、くちばしがピンク色の美しい姿をしている。空中で止まっているように優雅に舞うその姿から、フランスの詩人ボードレールは「蒼空の王者」「雲居の王侯」などと形容した
▼アホウドリという不名誉な名前も英名はアルバトロス。ゴルフ競技でパーから3打少なくホールを終了する言葉にも使われる。皮肉にも和名とは真逆の印象だ
▼鳥島の度重なる噴火も災いして一時は絶滅したと考えられたが、1951年に繁殖している個体が発見され、以後、様々な調査や保護活動、繁殖地の整備などが続けられた。現在では鳥島と尖閣諸島を合わせ約2500羽にまで増加。間一髪で絶滅を逃れはしたものの、楽観は許されない。絶滅の危機に追いやった張本人が私たち人間であることを忘れてはならない。

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