コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2019/06/18

狛犬と阿吽の呼吸

▼社寺の境内でよく見かける「狛犬」の像。獅子や犬に似た想像上の生き物とされるが、その形状はさまざまだ。長い歳月を経て、阿吽(あうん)という開口閉口の対で置かれる現在の形に落ち着いたようだ
▼日光二荒山神社(栃木県日光市)にある狛犬などは、いかにもライオン然としていて迫力があるが、狛犬というには少々奇異な感じだ。もっとも、狛犬の起源は古代エジプト・メソポタミアで神殿を守るライオン像だというから、狛犬が獅子(ライオン)でも何ら不思議はないことになる
▼中国を経て飛鳥時代に日本へ伝わった狛犬は、そもそも当初は獅子で、左右の姿に差異はなく、開口した姿だった。それが平安時代になって、異なる外見を持つ、獅子と狛犬が阿吽の対で置かれるようになった。アシメントリー(左右非対称)を好む日本文化特有の気風が関係するとも言われている
▼現在では左右別の形状を残したもののほうが少なく、阿吽ともに獅子に近い像のほうが多い。逆に、呼び方からは「獅子」が消え、「狛犬」に定着している
▼現代の狛犬は、社寺の入り口の両脇や、本殿・本堂の正面左右などに対で向きあう形、または守るべき社寺に背を向け参拝者と相対する形で配置されているものがほとんどだ。無角の獅子と有角の狛犬で一対とされるが、最近では無角の狛犬が多くなっている
▼近世以降、各地の寺社で膨大な像がつくられ、形状も多様化した。国内には、河童伝説にちなんだ河童狛犬や、狛犬ならぬ狛猫像などもある。また三峯神社(埼玉県秩父市)は、守護神がオオカミであることから、オオカミの姿の狛犬が境内に多数点在する
▼金剛力士像(仁王像)と同様、いまなお阿吽の形が多い狛犬像。二人以上で物事を一緒に行うとき互いの息が合うことを「阿吽の呼吸」と言うが、狛犬がこの形状に落ち着いたのも、ある意味、日本人の気質を示すものかもしれない。議論も大事だが、ときには狛犬にあやかって「阿吽の呼吸」で事を運ぶのも素晴らしいことではなかろうか。

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