コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2021/10/26

異例のスピードで国史跡

▼以前に小欄でも取り上げた明治の鉄道遺構「高輪築堤」は、保存の方針が決まってから異例のスピードで国史跡に指定されることになった。現地ではJR東日本が大規模な再開発計画を進めていたが、今年2月に萩生田文部科学相が現地視察に動いたことで潮目が変わった。ただ一連の流れには、埋蔵文化財に対する国の関わり方に課題も残した
▼文科相視察後の3月には、文化審議会が現地保存を求める意見を表明。JR東も同月末、自らが立ち上げた有識者らによる検討委員会に橋梁部分などの現地保存を説明し、4月には最終的な保存方針を公表した
▼石垣の一部が見つかったのは2019年で、その後の調査で遺構の一部、約800mが姿を現した。その場所にはJR東が約5500億円を投じ24年度開業予定でオフィスや商業施設などが入る超高層ビルの建設を計画していたが、築堤は計画地を横切るように出土した。検討委は橋梁を含む約80mの現地保存を提案したが、同社は「事業が進行中で、保存は難しい」と難色を示した
▼文科相視察後には急スピードで現地保存へ方針が転換され、8月には現地保存の計約120mが史跡に指定される答申が出された。文科相の視察がなければ、JR東が当初の計画通り開発を進めた可能性も大きく、遺構の一部がぎりぎりで守られたとも言える
▼一方で「お上の一言で方針が変わってしまうのは、いかがなものか」という疑問の声もあがった。そもそも国は史跡に指定される前の遺跡に対しては原則権限がなく、大切な遺跡が失われないために国がどう関与していくかは今後の課題となる
▼高輪築堤は1872年に我が国初の鉄道が開業した際、海上に線路を敷設するために築かれた。第七橋梁付近の石組みの遺構は、三代歌川広重の錦絵にも描かれている。行き交う人々の活気とともに、美しい石積みや弧を描く形状など、その魅力に文化財としての価値を再認識させられる。今回の国史跡指定が文化財保存の在り方に一石を投じたことは間違いない。

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