コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2024/06/04

江戸庶民の健脚ぶり

▼春は穏やかな日が続くからか、散歩やジョギングに精を出す人が増える。しかし近年は地球温暖化の影響もあって、春は短く、季節としての明瞭さも薄れてきた。梅雨時期に入れば、台風や豪雨に悩まされ、その後は猛暑で行動も制限される日々がやってくる
▼厚労省が1月にまとめた、健康維持のための運動の目安によれば、成人は歩行か同程度以上の身体活動を1日60分(約8000歩)以上、高齢者は40分(約6000歩)以上行うことを推奨している
▼仕事でもそれ以外でも車による移動がもっぱらの筆者にとっては、何とも耳が痛い。最近では多少の散歩や体操などを心がけるようにしているものの、まだまだ推奨の運動量には程遠い。生活習慣を変えることから真剣に考えなければ、目標達成は難しい
▼それにしても思うのは、いにしえの、とくに江戸時代の人々の健脚ぶりだ。文明の利器のなかった江戸時代の庶民は、通勤や買い物、行商など、何をするにもどこへ行くにも歩くのが常だった。その代表格が花見と旅。菊に月見、紅葉狩り、雪見など、名所へ出かけては酒食を楽しんだ。例えば桜の名所、飛鳥山(東京都北区)なら江戸中心から約8㎞。往復16㎞を歩いた
▼旅ならば、人気は伊勢詣だった。伊勢神宮(三重県)までは江戸から往復1000㎞弱に及ぶ。帰りは近畿や四国まで足を延ばし、総歩行距離が1900㎞もの旅にいそしんだ人もいた。東海道には約9㎞ごとに宿場ができ、途中には休憩場所もあり、徒歩の旅は意外と快適だったらしい
▼男女の別なく、つえを片手にわらじを履いて1日30㎞弱を歩き続けたとされる。道中の名所や神社仏閣などに立ち寄れば、歩行距離はさらに延び、平均40㎞に達した可能性もあるという
▼考えるだけでも気の遠くなる長旅だが、それだけ日ごろから足腰を鍛えていたのだろう。歩くことは生きることであり、人生は歩く楽しみと共にあったと言えるが、さすがに現代人にはまねしようにもまねできない健脚ぶりである。

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