2024/08/07
課題多い最賃引き上げ
▼今年度の最低賃金(時給)を全国加重平均で50円(5・0%)増の1054円とする目安が、厚労省の中央最低賃金審議会で決まった。「物価を上回る賃金」を掲げ、物価高の影響を差し引いた「実質賃金」のプラス転換を目指す現政権の強い意向が働いた形だが、喜んでばかりはいられない現状も露呈している
▼引き上げ額は昨年度の43円を上回り、4年連続で過去最大を更新した。最低賃金は、この目安を基準に都道府県ごとに決められる
▼地域の経済情勢に応じてA、B、Cの3ランクに分け、それぞれの目安額を提示するが、今回はいずれも50円とした。1都3県に限ると、目安通りなら東京1163円、神奈川1162円、埼玉1078円、千葉1076円となる
▼5%の引き上げに官邸関係者はインパクトがあると満足そうだつたというが、賃金の伸びが物価上昇に追いつかず、生活実感に近い実質賃金は過去最長の26か月連続でマイナスとなっているのが実態だ
▼政府が6月に閣議決定した「骨太の方針」では「2030年代半ばまでのより早い時期に全国加重平均1500円を目指す」と明記されている。実現には毎年3・5%程度の引き上げが必要となり、現実的な数値かには疑問が残る
▼働く人たちからは、すでに今回の引き上げでも足りないとの声が聞かれる。一律50円の目安とはいえ、最低額は岩手の943円で、東京との差額は現在と同じ220円となり、04年度(104円)からは倍以上に拡大するなど、地域格差の是正には程遠い
▼一方で、人件費の上昇で経営に苦しむ中小企業も多く、国の支援を求める声は今後一層高まるだろう。特に30人未満の中小零細企業は今年の賃金上昇率が2・3%にとどまり、経営への影響は計り知れない。物価高で資材費や電気代も膨らむ中、転嫁にも限界がある
▼大きな目標を掲げれば聞こえはいいが、データに基づく納得感が必要だ。国は社会政策としての賃上げの必要性を明確に示し、賃上げの環境整備を早急に進めていく必要がある。