コラム『復·建』

吉里吉里の山火事に思う

▼近年、大規模な山林火災が頻発し、容易に鎮火に至らない消火活動の難しさが伝えられる。多くはたき火や火入れ、放火など人為的な原因と聞くが、高温や乾燥、強風など温暖化による自然条件が火災を大規模化させているのは間違いない

▼記憶に新しいところでは、先月に岩手県大槌町で発生した山林火災は延焼速度も速く、町の8%に当たる1633haを焼損。発生から11日目に「鎮圧宣言」が出されたものの、いまだ完全な鎮火には至っていない

▼一時は民家の近くまで火の手が迫ったが、降雨によって火の勢いが弱まり、住宅地への延焼はどうにか食い止めることができた

▼火災は小鎚と吉里吉里の2か所でほぼ同時に発生したが、専門家によれば、2か所の距離が10㎞離れていることから、飛び火で2件目が起きたとは考えにくいとしている。条件さえ重なれば、山火事はいつどこでも起こり得ると考えるべきだろう

▼今回の火災で吉里吉里という地名を聞いて、作家・井上ひさし(1934~2010年)の長編小説『吉里吉里人』を思い起こした。1981年に刊行された同作は、東北の小さな村がある日、独立宣言したことから始まる物語だ

▼吉里吉里人が不当な政策を押し付けてくる日本国に反抗し、分離独立を宣言したものの、独立後2日目に崩壊する。高度成長に浮かれる日本から独立する様子が巧妙でユーモラスに描かれる

▼小説の舞台となる吉里吉里村は、岩手県との県境付近にある宮城県の架空の村という設定だが、モデルは大槌町の吉里吉里地区と言われる

▼吉里吉里の地名は、アイヌ語で「白い浜」の意味がある。東北を愛し、アイヌの悲しい歴史に思いをはせた井上だからこそ、作品の舞台を吉里吉里としたことは想像にかたくない

▼吉里吉里地区は、2011年の東日本大震災で壊滅的な被害を受けたが、新しい町にはすでに暮らしの明かりが灯っている。震災に追い打ちをかけるような今回の山林火災だったが、井上は今も当地の復興を見守っているに違いない。