コラム『復·建』

サッカーの神様 粋な計らい

▼サッカーワールドカップ(W杯)北中米大会は、アルゼンチンを下したスペインの優勝で幕を閉じたが、大会の盛り上がりは、W杯が世界最大のスポーツイベントであることを改めて認識させた。競技内容も素晴らしく、寝不足を吹き飛ばすほどの好試合が多かった

▼ただ、ピッチ内が輝いた分だけ、影の部分も際立った。決勝トーナメント1回戦でレッドカードを受けた米国代表FWが、次戦の出場停止を猶予された。この決定の前には、トランプ米大統領が国際サッカー連盟(FIFA)のインファンティノ会長に処分の見直しを求めていたことが明らかになり、スポーツの価値を大きく脅かす事態となった

▼ほかにもスペインのラホイ元首相が「フランス代表にフランス人はいない」と、多国籍なルーツを公然と揶揄する発言をし、物議をかもした

▼そんな中、閉幕後に一服の清涼剤のような記事を目にした。決勝で戦ったアルゼンチンとスペインのエースが不思議な運命で結ばれていた1枚の写真だ

▼風呂の中で笑う乳児を、20歳のメッシが泡を立てて洗っている。2007年当時メッシが所属していたスペインの強豪バルセロナと国連児童基金(ユニセフ)、地元紙が企画したカレンダー撮影の1コマだ。このとき生後5か月だった乳児は、のちに「メッシの後継者」と呼ばれるようになった現在19歳のヤマル。ヤマルの母親がこの撮影に応募し、当選したのだという

▼ヤマルはモロッコ出身の父と赤道ギニア出身の母の間に生まれ、バルセロナ近郊の貧困地域で育った。メッシと同じバルセロナの育成組織で過ごし、クラブ史上最年少の15歳9か月でトップチームデビューを果たした

▼39歳のメッシはこの写真について「信じられないけど、これが人生。こうして2人でW杯を争うなんて」と語っている▼決勝戦終了後には落胆して座り込むメッシのそばへヤマルが近づき、握手と抱擁を交わした。1枚の写真をめぐる縁(えにし)は感動的というほかなく、サッカーの神様の粋な計らいに胸が熱くなる。