コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2014/03/31

春は牧神のごとく

▼首都圏を襲った記録的な積雪に四苦八苦していたのは、ついこのあいだの気がするが、気がつけばすっかり春めいて、東京では先週、早々と桜の開花宣言が出された。その一方で、四季の変化が年々乏しくなっているのは気にかかる。春と秋が短く、夏と冬、つまりは暑さと寒さに侵食されつつあるようだ。それも地球温暖化などの気候変動と無関係ではないだろう
▼国連のIPCCが昨年公表した報告書によれば、このまま有効な対策が取られずにCO2濃度が上昇すれば、今世紀末には気温がさらに最大4・8度、海面水位が82㎝上昇。河川氾濫で被害を受ける人口は3倍に増え、海面上昇で移住を余儀なくされる人が数億人に達すると指摘している。温暖化影響や被害軽減に関する最新報告は、先月末に横浜市で開催されたIPCC総会でも報告されたが、上昇2度未満の達成には数年以内に世界のCO2を減少に転じさせなければならない、待ったなしの状況にある
▼春は旅立ちの時期で、桜の開花とも相まって日本人には特別な季節。その語源は「発る」「張る」「晴る」「墾る」にあり、古くから天候に恵まれ、希望にあふれる季節の象徴だった
▼寒さから解放され、心浮き立つ季節であってほしいと願うのは、いまも同じだ。中井英夫の小説に「牧神の春」という短編があるが、主人公の青年は春の昼なかに突然、半人半獣の牧神へと変身する。角や髭が生え、下半身には体毛が伸びだし、という具合に。そんな変身に驚きもしない自分を不思議に思いつつ、若者は窮屈な衣服を脱ぎ捨て、放たれた空間を自由に遊びまわり、飛んだり跳ねたりしたい衝動に駆られる
▼やがて自分の行く先を小高い丘の上にある動物園と悟り、そこでニンフともいうべき少女と出会う。そして「笑いながら尻尾を掴まえにくるニンフを追い回す」のが、楽しくてならない生活が始まる
▼かくして春は旅立ちのみならず、出会いの季節でもある。牧神への変身までは無理としても、せめて心浮き立つ、そんな春であってほしい。

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