コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

  1. ホーム
  2. コラム「復・建」

2012/03/07

すし屋の飾り物

▼渋谷区の公園でサメの死骸が発見されたというニュースが、先日の社会面などを賑わわせた。さぞ奇怪な事件かと思いきや、同区内のすし店の店頭に展示されていたサメとわかり、あまり興をそそられない落ちとなった。つい、興ザメなどというダジャレも吐きたくなる
▼同じくすし屋に飾られているものといえば、最近こんな小説を読んだ。店のカウンター正面に、フェルメールの『レースを編む女』の複製が掛けられているすし屋の話だ(リシャール・コラス著『旅人は死なない』所収)。すし屋にフェルメールというのも不思議な取り合わせだが、そのすし屋の無口な主人がある日、常連客の“僕”に、フェルメールについての"薀蓄"を語り出す
▼実物の『レースを編む女』を観たことがきっかけで、7か国に及ぶフェルメールの全36作品を観ようと決め、節約を重ねて費用を貯めると、店を閉めて長旅に出る。「生きる目的を再び見つけた」と語る主人。しかし結局、「夢の追及」はついえてしまう
▼数年後、主人はふさぎ込んだ表情で「もう旅には出ません」と打ち明ける。『合奏』という作品が盗難に遭って美術館からなくなったためだという。「仕方ありませんね。消えてしまった幽霊を追っても」と肩を落とし、フェルメール作品のモデルにかつての自分の恋人の面影を見ていたことも告白する
▼20枚ほどの短編だが、主人の孤独な佇まいに胸を打たれた。ついでながら、どうせ食べるなら、サメの飾られたすし屋よりも、こちらの主人が握るすしを味わってみたいと思うのは、筆者だけだろうか。

会員様ログイン

お知らせ一覧へ