コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2023/08/02

「人新世」に複雑な思い

▼耳慣れない「人新世」という言葉を最近、新聞などで見かけるようになった。体よく言えば、人間活動が地球に大きな影響を与えた時代、悪く言えば、人間活動が地球を元に戻せないほど変えてしまった時代を、新たな地質年代としてそう呼ぶことになったという
▼46億年の地球の歴史で人類の痕跡が残る時代を区分するため、地質学の専門家が国際学会に提案。具体的な場所(標準模式地)として、カナダのクロフォード湖の堆積物が選ばれた。大分県・別府湾の海底地層も上位3候補に入っていたが、選ばれなかった
▼人新世の開始時期については、核実験や工業化が本格化し、地球規模で地質などに影響を与え始めた20世紀半ばからを支持する声が国際地質科学連合の作業部会の大勢を占めた
▼ただし、人新世を新たな地質年代として認めるかは今後の議論に委ねられる。最終審査は最短で2024年だが、短期間の時代を新たな地質時代と認定することには懐疑的な意見もあり、正式に認められるかどうかは不透明だ
▼標準模式地のクロフォード湖では、湖底の堆積物から核実験由来の放射性物質が検出され、1950年ごろから増えていることを確認した。化石燃料を燃やしたときに出る灰なども見つかり、人新世を示す地層として高く評価された
▼そもそも人新世は、環境破壊や景気変動など人間活動が地球に爪痕を残してきた時代を象徴する言葉として広まった。コンクリートや金属など人工物の総重量は20世紀初頭には生物の総重量の3%に過ぎなかったが、20年には生物の総重量を上回ったとの報告があり、研究者の間では地球史で6度目の生物大量絶滅期が迫っているとの意見もある
▼地質時代を巡っては2020年、本県・市原市の地質を基に、258万年前から始まる「更新世」の中期が「チバニアン」と名付けられた。一方で今回の人新世は、人類のこれからをどうするかという議論を抜きには語れない。その意味するところを考えれば、何とも複雑な思いを抱かざるを得ない。

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