コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2025/10/21

邦訳待たれるノーベル文学賞

▼今年のノーベル賞は生理学・医学賞と化学賞で2人の日本人研究者が選ばれ、明るいニュースとして盛り上がったが、文学賞では日本人の受賞はならず、ハンガリーの作家クラスナホルカイ・ラースロー氏(71)に授与されることが決まった▼外国文学に多少の興味がある筆者も、寡聞にしてその名は知らなかった。案の定、邦訳は1冊だけで、改めて言葉の壁を痛感させられた
▼その1冊は『北は山、南は湖、西は道、東は川』という長いタイトルの作品で、早稲田みか氏の訳により松籟社から2006年に刊行されている。153頁とあるので、中編小説のようだ
▼スウェーデン・アカデミー・ノーベル委員会は授与の理由として、クラスナホルカイ氏が中国と日本を訪問し、それが文学の幅を広げたことを挙げている。そのことを知って、遠く感じられた作家の存在がにわかに身近になった▼聞けば、同氏は2000年と05年の2度、それぞれ半年にわたり国際交流基金招聘フェローとして京都に住んだ。『北は山、南は湖、西は道、東は川』は1度目の滞在の成果だという。内容は、西暦1000年前後に成立した源氏物語を踏まえ、1000年の時を隔てて源氏物語に接続する試みとなっている
▼知れば知るほど興味が湧いて、さっそく近くの大型書店へ出向いた。きっと目立つ場所に山積みされているだろうと高をくくっていたら、一冊もないうえに、絶版で増刷の予定もないという
▼正直、拍子抜けしたが、調べてみると、版元には書店からの問い合わせが相次いでいるものの、「すでに翻訳権の期限が切れ、自社での復刊が難しく、他の出版社から出してもらえないか模索中」という。初版1500部ほどで重版の見込みがなく、貸し出し予約が殺到している図書館も出ているそうだ
▼やはり作家、著作とも、その存在は近くなかったと言わざるを得ない。他社からの再販を望みつつ、新刊の邦訳刊行を待ちたい。幸い、デビュー作『サタンタンゴ』の邦訳版が来年刊行される予定とのことだ。

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