コラム「復・建|日刊紙 日刊建設タイムズ

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2023/04/05

遠い省庁の地方分散

▼文化庁の京都移転がちょっとした話題になった。さぞや不便ではとの思いが待つ先によぎること自体、すでに東京一極集中という既成概念にとらわれている証左に違いない。しかも、省庁移転がいまだ文化庁しか実現せず、それも全面的移転とは言いがたいのが現実だ
▼そもそも政府機関の地方移転は、2014年に安倍政権が掲げた。地方から誘致を募集したところ、42都道府県から中央省庁や研究機関など69機関の提案があったものの、実現したのは京都への文化庁移転だけにとどまった。これでは看板倒れと言われても仕方ない
▼文化庁を京都に全面移転するとの方針は16年に決まったが、その理由は「京都は文化財が豊かで伝統的な文化が蓄積しているから」で、それゆえに移転の意義は大きいとされた
▼もっともな理由だが、ふたを開けてみれば、京都に移るのは長官ら幹部のほか、文化財関連や宗務課の計6部署。著作権や文化施設、文化芸術振興などを担う計7部署は、関係団体が東京に多いなどの理由で移転が見送られた
▼文化庁内からはいまなお、国会議員への説明や他省庁との折衝などに支障が出るとの懸念の声が聞かれる。しかも、移転する部署の引っ越し費用は11億1000万円かかり、移転後の庁舎の賃料や維持費も馬鹿にならない。職員の東京への出張費は試算で毎年4700万円にのぼり、出張回数は年間で1400往復が見込まれるという
▼開いた口が塞がらないと言いたくもなるが、結局のところ、今回の文化庁移転は東京への一極集中の是正がいかに難しいかをかえって浮き彫りにした
▼せめて京都のブランド力を最大限に発揮して、文化行政を磨き上げる契機とし、「明治以来初の中央省庁移転」と京都側がアピールする今回の移転が、東京一極集中を是正する試金石となってほしいものだ
▼地方創生の目玉として打ち出された省庁移転だが、現実には地方分散の道は想像以上に険しく、長きにわたり続いてきた東京一極集中の根はあまりに深いと言わざるを得ない。

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