2025/04/08
アートの真贋
▼アートに〝真贋〟は付き物とはいえ、作品の出所や展示場所などで信用・信頼がずいぶん違ってくる。例えば「百貨店で購入したから」「美術館の収蔵品だから」などの理由で真作に間違いないと考えがちだが、そんな固定観念を揺るがす事件も起きている
▼2021年には、大手百貨店が販売した版画作品の一部に贋作が相当数出回っていたことが明らかになった。平山郁夫や東山魁夷、片岡球子といった日本画の巨匠たちの作品をもとにした版画の贋作で、大阪の画商が著作権者に無断で3人の作家の10作品を複製して販売していた
▼偽物を売った問題は残るものの、そこは百貨店というべきか、事件発覚後、速やかに調査して、偽物とわかった場合は全額返金する措置を講じた
▼最近では、美術館の収蔵作品が贋作と判断される、驚きの事件があった。高知県立美術館が所蔵するドイツ人画家ハインリヒ・カンペンドンク(1889~1957)作とされる油彩画「少女と白鳥」で、96年に同館が1800万円で購入したが、専門家の集団である公立美術館がなぜ見抜けなかったのか
▼森の中の水辺で戯れるかの、少女と白鳥の姿が、鋭角的な線と鋭い色彩で描かれ、写真で見る限り、幻想的で独創性にあふれる作品に見える
▼しかし、昨年6月にドイツの贋作画家ヴォルフガング・ベルトラッキ氏による制作の疑いが浮上。科学的な分析で制作当時の絵具として一般的でないことや、作品裏に来歴偽造ラベルがあったことなどから、贋作と判断された
▼この絵は実在の作品の模写ではなく、作風を模したシミュレーション作品だというから、贋作とはいえ、すこぶる腕のいい画家なのだろう。むしろ贋作でなく、本人の作として世に出たらどんな評価を受けたかと余計な想像を巡らせてしまう
▼同作は95年、ロンドンのクリスティーズの競売にかけられ、研究者により「真作」と記されていたというが、こうした事例がほかにもないとは言い切れない。アートの真贋は、永遠の課題なのかもしれない。